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|後記として|チラシ画像|

後記として

公演が終了して三週間ほどが経ち、ほとぼりも冷めた頃だろうということで、後記という形で少々。多くの偉大な先人が言っているとおり、本来一個作品にとって後記というものは蛇足であり敗北ではあるが、LifeRの活動の本旨の一つである「少なくとも本番後一ヶ月は内容を反芻して(苛まれて)ほしい」という考えのもとにここに最後に残すことにする。

まず始めに本作の原作とも言うべき→について。チラシ裏面(下に画像)でも軽く触れたが、今回の原案となったのはホーソーンの『緋文字』である。実際には時代も舞台も結末も大きく変わっているが、所謂「罪の定義」たる題材から着想を拝借し、今回の作品となった。もし興味を持たれたら、文学作品として屈指の傑作とされているので大抵どこの古書店にも置いてあることと思う(が、こちらからご注文いただけると僅かではあるが活動の支えにもなり幸いである)。先述のように舞台を「17世紀の清教徒社会」から「厳格なミッション系の高校」へ、そして役柄を「牧師」から「教師」へと変えているが、この変更自体が今回のテーマと同義であると考えてもらってよいかと思う。

ではまず「なぜ教師か?」という点・・・原作では「ある社会における絶対的神聖」が「その社会の中での罪とされる行為、かつ現代から見ればそうではない行為」を犯して苦悩するというのが構造の要となっている。原作の舞台であるところの清教徒社会と原作の執筆当時とで罪の定義が大きく異なっているからこそ、この構造から純粋に「人が罪と思っているものにぶち当たったときの様子」というものが抽出されるのではないかと思っているが、ただ全き現代の日本人がこの原作を読んだとき、この想定上の乖離以上の齟齬を感じることになる。

早い話、叙述として傑出している事は感じるが、根本的な事象としてはどうしても理解できないのである。勿論(大抵の古典を読むにあたっては必ずそうするように)書かれた国や宗教、時代、当時は誰が強者で誰が弱者だったのか・・・などなどのバックボーンを予備知識として片隅に起きながら読むことにはなる。まさに「寒い国で書かれたものは寒いところで読め」ということで、いわば「一個高いところから」原作中の事象を(さらにこの原作ではそれを眺める作者を)眺めることになるが、この原作では他と比べてもその乖離の具合が大きいように思われる。それがなぜ生じるのか、今回の設定もキャラクター配置も、全てはそれを直で感じるために設定したと言っていいくらいである。

原作が勧善懲悪でないのは明らかだが、台本中では登場する全てが真ん中よりわずかに、ないしは大きく「悪い(拙い)」方向に選っている。結局どれにも共感はできないが強いて言えば大きく選っている人間のほうが、言っていることは理解できるという状況。当初原作から純粋に受けた印象をデフォルメしたわけだが、そうすることで何故自分はこの(原作の)作中で起こっていることを理解できないのかが判るのではないかという想いの元に、今回は肝心のコアを観客から遠く離すことにした。そして、だからこそ今、中途半端な正義的な立場に置かれている「教師」という形にしたのである。その結果の如何は今度こそ独りで飲み込むこととするが、念のため「今作の主人公の言っていることに全く共感できない」と感じられた場合はまさにその先に考える点があるのだと思っていただければと思う。

ちなみに、これはもはや観ていないとお解りいただけないかと思うが、作中でメインの語り部となる好美、終盤で判明する事実から「若い割に数多を背負い込んで歳高に見える」のではなく「歳の割に若さが固着している」と見るのが本当なのだという、外観上のレトリックを挟ませていただいたが、これは「娘が母を上から包み込む」というあのシーンをやりたいがための設定でもはや結果論に近いものなので、よもやそこにまで思い至った方がいたとしたら喝采を送りたい。

などなど、案の定お見苦しい尻拭いばかりを昨今のブログなみに長々と書いてしまった。公演の後記とするならほかの関係者、出演者の方々の功績やら苦言やらも記さないといけないのだろうが、それこそまだ二倍三倍に膨れてしまいそうなので、この場ではストーリーに絞って描かせていただいた。既に本作も手を離れて観客の皆様の頭の中で勝手に育っている(ことを切に願う)ものであり、加えて言うならこちらはこの話を披露しただけで別に何かしらの答えを用意しているわけでもないので、後は薄れる記憶を反芻していろいろと噛み締めていただけると幸いである。

チラシ画像

チラシ[表/裏](クリックすると拡大します) フライヤー表フライヤー裏

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