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主幹

粗筋

 デカい旅行鞄を二つも抱え、ようやく駅に辿り着いた。急がなければ自分と家族の命が危ない。焦っているのに躓いて、必死なのに運がない。一人の小汚いなりの老人に捕まり、案の定三日に一本しかない首都行きの列車を逃す。

 余所者を受け付けない町の外れのバーでひっそりと歌うのは双子の夫婦のジャズまがい演歌歌手。片目の男と片目の女から生まれた子は何故か四つ目だったが、夫婦はこれを主の贈り物として大切に受け取る。『主』というのがなんなのかも知らないが、大切にするのに理屈はいらない。だがある時町にその『主』がやってきてから、途端に夫婦は我が子の存在を奇妙に感じ始める。

 そいつは昔は眼が七つ在ったと云う。二つしかないじゃないかと言うと、既に落眼したからだと応える。時期が遅かったので当時は虐められたのだと。どうにもヒトにしか見えないと言うと、ヒトと違い我々は指が四本しかないと応える。だが見てみるとちゃんと五本揃っている。今度は自分は奇形なのだと応える。云うまでもなく昔はそれで虐められたのだと。ヒトは自分を虐めないので好きなのだと。

 先祖代々、記憶の修練を実践し続けるのは偏に人類初の「眠る社会学者」と成るためだと、いつも祖父から聞かされていたが未だに全く意味が分かっていない。そんなものを目指すくらいなら人類初の火星到達を妄想する方がまだ実利的だ。先祖の阿呆な思いつきに付き合わされて、いつまでこんな阿呆な事を続ければよいのか。祖父の代で早めの反抗期を、父の代で思春期を試行して自分の代でようやく成人を迎えることになる。ならば、きっとこの阿呆な試みも自分の代で白黒決着が付くのだろう。日に日に蜂の色に染まってゆくバターの窓枠に噴水の羽を差し込みながら、今日も修練に励むほか無い。そういう家柄なのだから。

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